読切漫画『悪者のすべて』で小学館コミック新人賞入選を果たした岩田ユキ先生。
映画監督という経歴から「実写では表現できないアイディアが溜まって」と漫画を描き始めたそうです。
実写の映像作品と漫画の表現の違いとは?
ストーリー作りには自信があるという岩田先生のこだわりとは?
なぜそんなに胸を打つ「本当の感情」を描くことができるのか…
ネームタンク常連でもありお世話になっている岩田先生にインタビューさせていただきました!
主人公は、喜ばせてから一番傷つける方法を考える
━━この度は小学館コミック新人賞入選おめでとうございます!
受賞作『悪者のすべて』泣きました…!作品のテーマは何ですか?

[悪者のすベて]あらすじ:顔の醜さ故に虐げられていた少年が、悪の組織に誘拐され、覆面を被った下っぱ兵士にされてしまう。しかし覆面のおかげで容姿の平等や友情を初体験して一時の青春を感じるお話。
岩田:醜いという悩みが持つ複雑さや、友情や善悪など、いくつかの要素がありますが、
一言で言おうとすると「思春期の光と影」でしょうか。
光だけも、影だけでも嘘になってしまうので、さじ加減は大切に思っています。
━━納得です…まさにそれが表現された作品でした…!
岩田先生の作品は本当にストーリーが魅力ですが、ストーリー作りはどのように勉強されてきたんでしょうか?独学ですか?
岩田:はい、脚本の形式は映画の学校で教わりましたが、
中身の物語作りは、読者としての自分の審査に従っているところが大きいです。
もしも〇〇だったら…から始まって、主人公の人間臭い感情が見たいから、喜ばせてから一番傷つける方法を考えたり、どん底でどんな答えを出す子なら好きになれるか?に従って主人公の行き先を決めたりします。

[悪者のすべて]
━━主人公に対してものすごくドSなんですね…
岩田:はい、主人公は 崖から突き落として、登ってくるのを祈りながら見守るライオンの母親的方針で育てることが多いです。
「皆が好きな作品を私だけ好きになれない」状況の中で
岩田:子供の頃から、漫画やドラマの主人公を好きになれないことも多くて、結構ストレスだった気がします。
皆は良い子だと言ってるけど、私はその主人公が優遇されててズルく思えたり、引き立て役にされるサブキャラが気の毒に見えたり…
「皆が好き、私だけ嫌い」の状況って、とっても寂しいし居心地が悪くて。
自問自答で「私はなぜ嫌いなのか?」「どう変えたら好きになれるか?」
と考える癖が付いて、自分が作る時は それに照らし合わせてることが多いです。
だからこそ、時々「皆が好きで、私も好き」な作品があった時の嬉しさや、その作品に対する恩はずっと持ち続けていて。
「物語の中で誰よりも恥をかいてくれる主人公は好き」とか、理由や共通点が少し分かってきたり、
みんなと一緒に好きになれた作品の「好きな理由」が教科書になったりもしています。
━━誰にも真似できない教科書の作り方ですね…!
岩田先生はいつから漫画を描かれていますか?
岩田:真似ごと程度のものは、小学校くらいから。
藤子不二雄先生に憧れて、姉と手描きの雑誌を自主制作して100円で親に売っていました。
本格的にコマ割りしたり、漫画の技法を学んで実践し始めたのはここ2年くらいです。
ストーリー作りは、真似事の時代から今日まで、ほぼずっとやっています。
実写映画の脚本から漫画へ
━━漫画を学び始めたきっかけがあれば教えてください。
岩田:文具のキャラクターデザインから映画の仕事をするようになり、オリジナルのシナリオやプロットを書く機会も頂いたのですが。
私の考える話は、そもそも頭の中が絵脳なので、絵のキャラクターでイメージされているんです。
そのため思いつく殆どのストーリーが、実写向きではなくてアイディアや企画だけ溜まる一方でした。
無理に実写用にストーリーを変えるよりは、漫画を勉強してこの物語が一番伝わる形で出してみようと思いました。

[おナスにのって]
━━「文具のキャラクターデザインから映画の仕事」さらっと面白そうな経歴が2つも…!
それぞれどのような経緯でお仕事を始められたんですか?
岩田:文具のキャラクターデザインは、高卒からOLをしてる頃その職業を知って漠然と憧れていたのですが、なり方が分からなくて…
文具売り場でレターセットを沢山買って、裏に書いてあるメーカーの電話番号に
「デザイナー募集してませんか?」と片っぱしから電話していって
大阪の文具メーカーに就職し5年勤めました。
文具の仕事では、心のある血の通ったキャラクターは長生き出来る…ということなどを学びました。

キャラクターデザインのお仕事[もぎりさん]
その後会社を辞めてセツモードセミナーに通う為に上京し、
アルバイトとイラストの仕事をしながら夜間部に通う生活が4〜5年続きました。
━━こ、濃すぎる…ものすごい行動量ですね。
岩田:はい、年配な分ダイジェストで話すと濃い目になりますね(笑)
で、そこから絵を動かすことにも興味を持ち、映画の学校に行き、カメラの使い方、脚本の書き方を学びました。
担任だった中島哲也監督から「二番煎じの方が面白いこともある」とか
「お前の作品は、自分の好きなものに囲まれて閉じこもってる子供みたい、一度嫌いなものを作品に取り入れてみたら?」とか、
考え方の変換を教わりました。
卒業制作の時、自分の一番嫌だった思い出を出してみようと、
中学校の頃、学級新聞でクラスの嫌われ者1位として貼り出された経験からストーリーを作り、嫌われ者3位の子の目線の微妙な恥の物語を作りました。
その短編映画がいくつか賞を頂いて、監督のお仕事を頂くようになりました。
暗い自分の恥で、誰かを楽しませることが出来ると知れたのは良かったです。
会話やコミュニケーションが下手なので、大勢のスタッフと接する映画の世界ではかなり苦しむことになるのですが…

[指輪をはめたい(2011)]
実写の映像作品と漫画の表現の違い
━━「思いつくストーリーが実写向きではなかった」とのことですが、具体的にはどんなシーンで実写での表現に壁を感じますか?
岩田:今回描いた「悪者のすべて」「おナスにのって」に関しては、「表情」です。
実写では、欲しいニュアンスにならないと感じます。
簡略された点目の顔が持つユルさが、状況の重さを和らげてくれたり、現実味からズラしてくれたり、
そういう架空のキャラクターが、私達と同じ揺れる心を持っていることが、大切な要素に思っています。

[おナスにのって]
岩田:一方で、実写の優れてる点も「表情」だと思っています。
線画と実写が共存する映像作品を作った際、編集室で何十〜何百回と映像の繋ぎをチェックすることもあり、
新鮮に思ったアイディアもだんだん飽きがきます。
でも役者さんが良い演技や表情をしてくれたシーンは、最後まで飽きることがありませんでした。
私の画力の足りなさもありますが、人間の表情は それだけ深く複雑なんだと思いました。
━━逆に漫画を始めて、映像作りと勝手が違って困ったことはありますか?
岩田:漫画を描き始めて、自分が絵が下手だと気づき、慌てました。
仕事では頭身も低いユルいキャラを描くことが多く、デッサンの基礎が出来ていなくても、あまり困ることがなくて今まで気がつかなかったんですよね…
背景描きのパースの原理もよく分からないまま、人の全身像や手も上手く描けなくて、
思い描くシーンにならなかったり、何回も描き直して時間がかかり過ぎたり…
すごく今更ですが、人体や背景描きの勉強中です。

[銀幕髭サーカス]
━━今後の目標を教えてください!
岩田:理想は「物語が必要な人に届いて、そして残る」ことが大きく目指すところです。
私が描くテーマは、時代関係なく、生き下手な人には必要なんじゃないかと、そこには自信を持っていて。
私が居なくなった後も残って、傷ついてる人の味方になってくれたらいいな…とか、
カッコつけた発言ですが、これだけは本当に思ってましてっ。
そのためには具体的には、
人目に付くメディアで発表し続けなければまず見てもらえませんし、漫画で食っていけるようにして、描く時間を確保する。作業スピードを早くする、もっと絵を勉強して描ける表現を増やす…
課題は山積みですが、書き溜めたアイディアも山積みあるので、一つ一つ形にしていきたいです。
連載も目指していますが、まずは短編集の本を出せたら嬉しいです。
━━岩田先生の今後のご活躍、本当に楽しみです!本日はありがとうございました!

岩田ユキicon-twitter
漫画家、映画監督、キャラクターデザイン
【監督脚本】 「指輪をはめたい」2011 「8ミリメートル」2009 「檸檬のころ」2007
【漫画】 「ようこそ、自由の森の学食へ」2017 「おナスにのって」2018 「銀幕髭サーカス」
【企画 デザイン】 アプリ「我輩はパラパラ漫画家である」 他
岩田先生の受賞作『おナスにのって』『悪者のすべて』はWEBで読めます!
また2019/7/12発売の小学館「スペリオール」電子版にも『悪者のすべて』が掲載されます。
ぜひご覧ください!


漫画「悪者のすべて」
— 岩田ユキ (@yukiiiiwata) 2019年6月18日
小学館コミック新人賞入選させて頂きました。
嘘の世界の中で、悩み続けた本当の気持ちを描きました。
↓是非読んで頂けると嬉しいです。https://t.co/KJ156Zbuxu
↓漫画「おナスにのって」も引き続きよろしくお願いします。https://t.co/BfLWhHJTxo pic.twitter.com/QAVSYr4AGa

